小説

記憶の母鳥②

南の群島上空を、集団生活を営む雌鳥が一羽で飛行していた。 彼女は群れから追いやられた鳥であった。 羽ばたきには力が無く、風に身を任せているといったようである。 風が導いたのか、彼女は、視線のはしに砂浜をとらえ、そこに打ち上げられた赤ん坊をみつ…

記憶の母鳥①

太陽があと1時間ほどで海へ沈む。 この時間になると、この南の小さな島国では仕事を終えたものたちが、かつてこの島国を支配していた文明の匂いを残す、海岸に作られた城壁に腰掛け、太陽が沈むまで談笑する。 夕日にあてられた人々の顔には赤みがさし、それ…

THE サン

秋空の下、一人の男が草原で昼寝をしていた。 ゆっくり空をたゆたう雲の作った日陰が男に落ちる。 男:昼寝をするには最高の日だなあ 男は大きく全身を四方へ伸ばしながら深呼吸し、大きなあくびをした。 雲の切れ間から、太陽がちょうど男を照らし出す。 男…

タロウのある朝

タロウは、ある朝アサガオが花開くように目覚めた。住んでいる団地は静まりかえっている。「まだ寝ていてもいい時間だな」とタロウは思った。タロウは知っていた。目覚めるときはいつも、周りも目覚める。団地には生活音が感じられるようになり、鳥も目覚め…

トシロウ

ニホンのトウキョウ、その中でも下町と呼ばれるような商店街と人々の生活が密着した地域の話。今や店ではなくシャッターが立ち並ぶ商店街の近くに10年前に古びた街並みに似つかわしくない現代建築20階建てのピカピカと光ったマンションが建てられた。そ…

ネジと私と無駄話

仕事中に雑務として、印刷物の描かれた紙をはさみでカード状に切っていた。目の前には同じ仕事をしている若い女性がいて、共に果てのない会話をしながらカードを切っていた。 そんな仕事の最中、脈絡もなく彼女がこんなことを言った。 「こういう風にはさみ…

旧友となじみの喫茶店

学生時代からの旧友と家の近所で久しぶりに会うことになりました。午前十時に、私の家の最寄駅で待ち合わせです。駅のタクシー乗り場で、八月の猛暑に汗を流して待ちました。 コンクリートに囲まれた植え込みにぽつんと植えられた街路樹にセミが一匹とまって…

フランケンシュタインと青年

いたいけなフランケンシュタインが石を投げられている この村の法律に、フランケンシュタインの文字はない あきらかな暴力、俺に飛ばしたのなら裁判にかけられる でも、この村の法律にフランケンシュタインの文字はない 彼は人間じゃない 彼には心がないらし…

AIとルートヴィヒ

全てのことをAIが決めてくれる時代。AIがおすすめしてくれる商品は、個人の趣向を把握し、よりよい経験を向上させる。個人のする選択は、選択できる情報量が少なく、個人のよりよい経験をあげるとは限らない。全ての経験は、AIによって選択することが望まし…

刈り上げ男と横分け男とパーマ男

チェーンの居酒屋で、三人組の男が酒を酌み交わしている。彼らは高校の同窓生。 店の内装は日本風の作りで、照明はオレンジ。 刈り上げ男:性欲で好きになるのってどう思う? 刈り上げ男が、ジョッキ傾けながら語る。 パーマ男:いいじゃん性欲。 横分け男:彼…

寝太郎と体

寝太郎は3年働かず、動かず、寝ている。 実家で、汗まみれの布団に包まれている。 今日も、昨日と同じように天井の一点を見つめ、息をする。 寝太郎:働かなければいけない。しかし、体が動かない。 体:ぼくはまだ動ける体じゃないよ。 寝太郎:でも、働かなく…

彼氏と彼女と鳩

二人の男女が池のある公園を歩いている。季節は春の終わり。桜が風に乗りながら、舞い落ちている。 池の前にある二人用ベンチに男女が座る。池はハスが生い茂っている。鳩が二人の前に降り立った。次の瞬間、人がそこへ歩いてきたので、鳩は首を素早く動かし…

芸術家と頭がい骨

芸術家が一人、ログハウス的アトリエのデッキにいて、次の作品の構想を練っている。 デッキには、円形のテーブルがあり、そこにコーヒーとノートとペンがある。 ホットコーヒーは、芸術家が飲まずに数分置いておいたので、冷めている。 芸術家:ああ!いいア…

DVD屋店長と常連客

店長の趣味がわかるレンタルDVD屋がある。大型チェーン店や、ネット配信が主流の映像業界において、このような店は珍しい。この店が残っているのは、毎日、決まった時間に通ってくる常連客、そして、店長の「仕事は趣味の範疇」という利益度外視の経営方針、…

青年と友人と医者の娘

今より少し昔、フランスの片田舎。針葉樹がそびえたち、穏やかな川の流れる村。名産は、リンゴ酒。昔ながらの製法で作られたリンゴ酒は、愛飲者が多い。 そんな村の、はずれの丘で針葉樹の影に包まれ、ひっそりと青年が寝そべって青空をただよう浮雲を眺めて…

男とライオン

一人の男が、動物園のライオンの檻の前にいる。 男が、一番近くにいた前足に顎を置き寝ているオスライオンに話しかける。 男:なあ、ライオン。お前は、何に憧れてる? ライオン:なんで、俺にその質問をするんだ。 ライオンが顔をあげ、男のほうを向いて、…

魔法の世界に行きたい

中学2年生の男子は、魔法の世界に行きたがっている。その世界では、勉強をしなくても空を飛べるし、友達もたくさんできる。 過酷な部活動を終え、自室へと帰ってきた中学2年生の男子は、扉を足で閉め、目の前の布団へ倒れた。疲労感と、せっかく家に帰って…

やわらかくて丸い物体

一つの丸い物体がある。 はねたり、とんだりしている。 どうやら、やわらかいようだ。自分のやわらかさをゴムのように使い、はねている。 そこへ、もう一つ丸い物体が現れた。 ドンっとぶつかってきた。やわらかい丸い物体は、はじき飛ばされてしまった。 や…

なりゆきの学問

真田成之(なりゆき)という男は、親が名前にそういう思いをこめたかは分からないが、なりゆきに任せるという男に育った。義務教育という日本のシステムに何思うこともなく、漠然と机に向かい、織田信長を誰が討ち取ったのかを教科書に書いてある通り信じて…

もし、私を食べるなら

私を食べるなら なるべくよく噛んでほしい まだ味があるのに、飲み込まれるのは悲しい 私を食べるなら 「いただきます」と言ってほしい 私の命を意識して、自分の命にしてほしい 私を食べるなら 幸せそうに食べてほしい そうだ、これだけは守ってほしいこと…

空をみつめて

その男は、いつも空を見つめている。仲間と一緒に昼食をとった時も、急に姿を消したと思うと空を見つめていた。そして、にやりと笑う。 最初はみんな不思議がって質問するのだけど、この男とんでもなく口下手。 「いやあ、これが好きなんです」としか答えな…

孤独のカンブリア

「ああ、私は孤独だ」 Yは目から涙を溢れさせた。 それはYの体内で変化が起こっていることを示していた。 Yの全てがYの孤独を認め、Yの体内でカンブリア的変化が起きた。 Yという人間は、つねに不安を感じている性質の人間だった。 その不安はYが毎日欠かさ…

さかあがりの壁

「今日の「たいいく」、鉄棒だってよ」 この言葉をきいただけで、学校に来なければ良かったと思う。 先生が言う 「次は、逆上がり!」 次々にみんなが、さか上がりを成功させていく。自分の番がきたら、さか上がりできるようにみせなきゃいけない。 なんでか…

夜と夢と友人 

男三人、年季の入った交遊がはじまった。 今はもう、肩並べ、同じ道を歩んでいない、三人の男。 それが今宵、星と月の瞬く間、ひとつの空間を共にする。 酒を酌み交わし、共にした過去の夢へと落ちていく。 笑い、叫び、過去か現在かの区別もつかぬ、夢うつ…

2004年 東京に住む 14歳の少年

2004年、東京に住む14歳の、 ある一人の少年、 14歳特有の孤独をかかえている。 同年代の若者を寂しげな眼差しでみつめる。 「おれには無い。友人を作れるほどの、誇れる魅力が。」 少年、孤独であること、顔見知りに知られたくない。 「ふん、おれは一匹狼…

男、青春みつめて、青春したい

男ベランダに立ち、外行く子供ながめてる。 「ああ、美しい。 子供はなにも持っていない。それは、どんなものでも持てるということだ。無限の選択がある。走る体が光ってるみたいだ」 「ん~っ。」 男、全身のこわばり伸ばしゆるめた。 「いやいや、待てよ。…

老人と死に神と走馬灯 ③ 終

私は、彼女のいる町を離れた。 ギターを弾くことの意味に疑問を感じたからだ。 ほんとうはそんなこと考えるものじゃない。芸術に意味などない。 けれど、考え出すと脳に焼き付いて離れなくなってしまった。 私は故郷に戻りたくなった。 自分の答えは、あそこ…

老人と死に神と走馬灯 ②

私は家族の目の前で、堂々と家出の支度をし、目の前で家出をした。 父はいちべつもくれずに仕事をしていた。 なにを思っていたのか・・・本質が違いすぎて考えが及ばない。 弟の、あの時のまなざしは、今でも忘れられない。 人間は瞬時に信頼できる人物をみ…

老人と死に神と走馬灯 ①

「わたしの人生はどうだった」 最近、死に神をみるようになって こんなことが頭の中をぐるぐる駆け回る 死に神は今日、風景画を書いていた この前は、路上音楽に聴き入っていた 死に神は芸術を解するらしい。嬉しい発見 とにかく、死に神をみてしまった 私は…

くうきのたまご

にわとりが産んだ卵に中身が入っていない。そんな不可思議な事件から物語は始まる。 養鶏場主から「中身のない卵」の検査を依頼された大学は、養鶏所へと向かった。そこには、管理された鶏たちの姿があった。 狭いカゴに入れられ、ただ餌を食べるだけの姿。…