(読書感想)わたしの中のカフカ カフカ「変身」を読んで(ネタバレ注意)

 ある朝、グレゴール・ザムザがなにか気がかりな夢から目をさますと、自分の寝床の中で一匹の巨大な虫に変わっているのを発見した。彼は鎧のように堅い背を下にして、あおむけに横たわっていた。頭をすこし持ち上げると、アーチのようにふくらんだ褐色の腹が見える。腹の上には横に幾本かの筋がついていて、筋の部分はくぼんでいる。腹のふくらんでいるところにかかっている布団はいまにもずり落ちそうになっていた。たくさんの足が彼の目の前に頼りなげにぴくぴくと動いていた。胴体の大きさにくらべて、足はひどくか細かった。

「これはいったいどうしたことだ」と彼は思った。夢ではない。見回す周囲は、小さすぎるとはいえ、とにかく人間の住む普通の部屋、自分のいつもの部屋である。

こんな書き出しからはじまるカフカの「変身」

起きるとグレゴール・ザムザは、自身が巨大な虫になっていることに気づくところから物語は始まります。

私はこれを読み始めたとき、

「読者に興味をもってもらうために、巨大な虫という奇抜な主人公にしたのかな」

と思いました。

そして、読み続けていくと、私は、あることに気づきました。

グレゴール・ザムザは、「自身が巨大な虫になってしまった」という異常な状況に突然置かれたというのに、冷静だ」

 

本の書き出しから、

「自分がどんな状態の虫」で「これは夢であるかどうか」もわかっている。

口では「これはどうしたことだ」と驚いてみせますが、彼は冷静です。

 

私はここに、

「うつの人が持つ、傾向」を感じました。

 

うつの人は、健康状態の人よりも、

「現状を把握する能力」が優れているらしいのです。

yucl.net

 

「自身がどんな状況におかれ」「なにができて、なにができないのか」

それを冷静に認識する(してしまう)のがうつの人の特徴です。

 

グレゴール・ザムザはまさにこれです。

異常な状況に置かれても、彼はひたすら「自分がどんな状況におかれているか」を語り続けます。まるで、科学者のレポートのように。

 

健康的な人は「少し自惚れ状態」だから、世界が少し歪んでみえるのです。

 

つまりグレゴール・ザムザは、

冷静に「自身が巨大な虫になった」と現状を把握しているのです。

 

 

このザムザの心理状態を私も持っています。

「はやくにんげんになりたい」という、このブログのタイトルが物語っています。

 

自分が人間ではないと感じてしまう人間にとって、

「おまえは人間だ」と言われても、それは信じられないことなのです。

自分の意識ははっきりしていて、誰よりも冷静だと分かっているからです。

 

──────(ここからネタバレ注意)────────

 

おそろしいことにザムザの冷静さは、

自分の死の直前まで続きます。

 

彼は冷静に自分の死を語り続けます。

 

私は、なんだかわからない感情が心の底から湧き上がってくるのを感じました。

文章を書くものとして、言葉にできないというのは辛い。

私は今、あの感情を表現できる言葉を持っていません。

 

短い小説ですので、もしよかったら読んでみてください。

そこで、私が言葉にできなかったものを感じてみてください。

 

 変身 (新潮文庫)

変身 (新潮文庫)