男と女

 「こんな素敵な人みたことない。」

 「それは、俺のセリフだよ。」

 女と男は愛し合い、結婚をした。

 そして、数年たった今、

 「こんな人みたことない!!ありえない!」

 「それは、こっちのセリフだ!」

 目を合わせれば威嚇しあう。

 目が合っていなくても、男と女は互いのことをけなし合うのだ。

 男は、仕事先の男の先輩に相談する。

 「あいつがあそこまでひどいとは思わなかった。俺を財布だとしか考えていない。結婚は、体よく金を引き出せるようにするためだったんだ。」

 「それはひどいなぁ。だけど、うちの女房もそんな感じだぜ。ははは。」

 「結婚なんてするもんじゃないなぁ。」

 「仕方ないさ、今日はパパっと飲んで、いいところへ連れて行ってやる。」

 「ありがとうございます!先輩!」

 女は、女の友人に相談する。

 「あんな人だとは思わなかった。夜な夜な、歓楽街を歩き回ってるのよ。あれで、どれだけ無駄なお金を使ってるのか。そのぶん、家計に回ればどれだけいいか。」

 「それはひどい。でも、旦那なんてそんなものよ。お金だけもってくればいいのよ。」

 「結婚なんてするものじゃないわねぇ。」

 「結婚なんてそんなものよ。今日は、ケーキビュッフェで沢山食べて、ストレス発散しましょう!」

 「ありがとう。あなたのおかげでやっていけるわ。」

 男と女はもうわかり合えない。互いが違う生き物だと気づいてしまったから。

 男と女は弁護士に離婚の相談をしに行った。

 「子供は私が育てます。養育費を払ってください。」

 「子供は俺が育てる。養育費を払ってください。」

 男と女の求めるものは、二つに分けられないもの。話は、平行線を走る。

 何度も何度も、互いの意見が妥協点に落ち着くため、弁護士のところを訪ねた。訪ねるたびに、男と女は互いの意見を押しつけ合うのだ。絶対に、認め合えない意見を。これは小さな戦争だ。

 男の仕事先の男の先輩は言う。

 「あきらめるな、俺は応援してるぞ。」

 女の女の友人は言う。

 「がんばって、私は応援してるわ。」

 小さな戦争は冷戦の様相を呈した。そして、勝利は、女にほほえんだ。

 女は言った。

 「子供っていうのは、女が育てるものなのよ。だから、子供は私のものよ。」

 そのとおりだった。この国では、離婚するとき、子供を手にできる権利が男にはない。 女の爪は、男に致命傷を与えた。

 女は言った。

 「養育費をよろしくね。」

 瀕死の男は台所へ走り、包丁を勢いよくもち、女へ向けた。

  「こうなったら、おまえを殺してやる。」

 女は青ざめた。殺したと確信した生き物が、今、私に確実な致命傷を与える武器を持っている。女は、男を説得する。

 「バカなことやめて、こんなことしても誰も喜ばないわ。」

 男は言う。

 「喜ぶさ!おまえ以外は。」

 女は時間をかせぐために言う。

 「・・・そのとおりね、あなたが私を刺したら、ニュースになって、私たちの不幸をみんなが井戸端会議のネタにして、喜ぶのよ。そんなのがいい?」

 「・・・よくないな。」

 男は、包丁を置いた。女の冷や汗が、ひたりと地面に落ちた。

 「・・・あ、弁護士も俺らの不幸で喜んでるな。」

 と男が言った。

 「確かにそうね。」

 続けて、女が。

 「もしかしたら、私の友人も、私の不幸で喜んでたのかも。不幸な仲間が増えたって。」

 「それを言ったら、俺の会社の先輩も、自分が奥さんとうまくいっていないから喜んでいた。」

 わたしたちは、エサになっていたのだと気づいた。

 数年ぶりに二人は同じ意見を共有した。

 「俺たちの不幸で喜ばないのは、子供だけだな。」

 「そうね」

 「バカらしいな。こんなことはやめよう。」

 「そうね、バカバカしいわ。」

 男と女は、ふたつに分けられない子供を二人でなるべく分かち合った。

 不幸をエサにする者たちは、ここではお腹が空いて仕方がないので、他の不幸を探しに飛び立った。

 

 

おわり