スーツの王国

その国では皆(みな)、生まれると成人になるまで外部と遮断され、教育を受ける。
大人になると、全身を覆うスーツを着せられ、夢にまでみた王国へ
スーツは特注、みな同じ。
皆(みな)が同じような暮らしをし、同じような遊びを楽しむ。
平等しかない、スーツの国。
幸せ最先端、スーツの国。

一月一日
私はサラリーマン。
名前は「おまえ」
今日から日記をつけることにする。

一月一日
ぽっこりお腹が気になるが、サラリーマン仲間は皆ぽっこりお腹。
仕事柄、お酒を飲む機会が多いのだ。
体は悲鳴をあげている。けれど、皆辛いのだ。しょうがない。

だから、ぽっこりお腹を指さして
「おまえぽっこりお腹だな」
「おまえもぽっこりお腹だろう」
と笑いあう。皆おんなじ、頑張ろう。

一月一日
たまに、お酒を遠慮するやつがいる。
「明日は朝が早いからやめとくよ」
これも仕事なのに、断るのだ。
「私だって明日朝早くて辛いんだ」
そう言って飲ませた。皆おんなじ、頑張ろう。

一月一日
電車で二つ分の席を一人で使っている人がいた。
ガラガラの電車だったけれど、
私は「ルールがなっていない」と怒った。
すると同僚が
「おまえは正義感が強くて素晴らしいな」とほめてくれた。
なぜだか、まったく嬉しくなかった。

一月一日
私は、接客業が苦手だ。
あぁ、なんで私はこう人付き合いが苦手なのだろう。
みんなうまくできているのに・・・、
なんて駄目な人間なんだ。


一月一日
職場でつい大声で叫んでしまった。
私は、精神病らしい。入院だ。

一月一日
精神病棟で叫んでいる人間がいた。私と同じように。
やはり私は、精神病なのだ。

一月一日
この前叫んでいる人が気になり、話しかけてみた。
「一緒に叫ぼうよ。叫びたいなら」
一緒に叫んだ。
先生に電気ショックをされた。

一月一日
あの人は魅力的だ。私は、あの人が一番幸せそうにみえる。

一月一日
あの人は皆と同じ外見をしているけれど、すぐに区別がつく。
目の前から歩いてきただけでわかるのだ。
その違いをあの人に話して、そこが「素晴らしい」と言った。
すると
「人の違いを褒められる、あなたも素晴らしい」
「みんな、私が違うことをしていると怒り出す」
私は思い返してみた、
「私も違うことをしている人がいたら怒ってた」
「そうなの?」
「でも、怒ったことを「正義感が強いね」って褒められても嬉しくなかった」
「じゃあ、本当はしたくなかったんだね」

本当の私ってなんだろう?

一月一日
私とあの人は、隠れるように「本当の私探しゲーム」をしはじめた。
なにが嫌いで、なにが好きなのか。
たくさん話して、たくさん考えた。
本当の私ってなんだろう?

一月一日
鏡をみていたら、なんだか違和感があった。
なんで皆同じ姿なんだろう。
あの人に話すと、あの人もそう思うらしい。

そして、あの人が提案をしてきた
「スーツのチャック、はずしてみない?」

それは危険だ。
はずしたら、どうなるかわからない。
だって、ずっとスーツを着て生きてきたんだから。

「なら、私のスーツからはずしてよ」

スーツをはずすということは、この国に住めなくなる。
スーツはこの国の永住許可証。

この国は、平等。そして、幸せ最先端の国。
それでもいいの?と尋ねたら
それでもいいよと返事がきた

私は、チャックをおろし、スーツを脱がせた。

つるんっ

「ははは!」
つい笑った。
そこにあったのは個性。
黒くて長い、つやつやとした髪。
目は、離れ気味で、大きい。目の色は、青。
肌の色は、こげ茶。
足が短い!なんてださいんだろう!
でも、なんだか愛らしい!

「私も私も!」
うらやましかった。私も個性がほしかった。

つるんっ!

ほめられるような姿じゃなかった。
恥ずかしいから、文字にはしたくない。
でも、私だけの体。

あの人が言ってくれた。
「その鼻、かわいいね」
本当の自分を褒められるのは嬉しい。


一月二日
彼女たちは、国を追放された。
国の外の世界は、平等も幸せもないと国の中にいたときは思っていた
「この家には暖房がなくて寒い」
「でも、幸せ」
彼女たちは、自らを知り、思ったより寒さに耐えられることをしった。