老人と死に神と走馬灯 ③ 終

私は、彼女のいる町を離れた。

ギターを弾くことの意味に疑問を感じたからだ。

 

ほんとうはそんなこと考えるものじゃない。芸術に意味などない。

けれど、考え出すと脳に焼き付いて離れなくなってしまった。

 

私は故郷に戻りたくなった。

自分の答えは、あそこにある気がした。

 

「兄さん?」

弟は私よりも大きくなっていた。

「久しぶり」

「父さんは今、なにしてる?」

「ああ、畑に出てるよ」

 

「父さん、珍しい人が来たよ」

 

父は聞かず、何もいわなかった。

 

弟は、結婚し、子供を二人授かっていた。

私は、しらぬ間におじさんに

 

「家出して悪かった」

「家出してよかったよ」

「なんで?」

「だって、あの頃、常に鼻息荒くて、呼吸するのも大変そうだったよ」

「・・・気づかなかった」

「今は、元気そうだ」

私は涙があふれてくるのを止められなかった。

どんな感情かはわからない。ただ悲しくはなかった。

 

太陽が真上にある、もっとも暑い時間。

弟が息をきらし、駆け寄ってきた

「兄さん!知り合いって人がきたよ!」

弟の指さす方向に目をやると、

彼女がいた。

「久しぶり」

「ほら、故郷の話してくれたでしょ、それで、どんなところなのか気になって。まさか、いるとは思わなかったけど」

 

前はそれほど仲が良いというわけじゃなっかった、

だが、会わない時間は私たちを旧知の仲のような会話にさせた。

彼女の会話は、昔のままだった。人の本質を奮い起こさせる。

 

「ギターは弾いてるの?」

「前よりは、弾いてない」

「久しぶりにあれやって」

「いいよ、お題は?」

「そうだな、「今、この時」を音楽にして!」

 

集中力が極限に近づくと、意識が内側にめりこんでいくような感覚になる

あのとき、ギターを弾いたときもそうだった。

 

「風景と音とギターを弾く姿がぴったり合ってた。すごい好き。創作意欲沸いてきたよ」

と天使の笑みで彼女は言った。

 

そのときだ。私は一つの真理を得た。

 

彼女にみせるために私は音楽に触れてきたのではないか。

 

故郷に戻り、私を作り出した風景を思い出し、それが旋律に溶け込んだ。

あのとき弾いたものは、私そのものだった。

 

飾りのない生身の自分を好きになってもらえるほど、嬉しいことはない。

その喜びを得たいがために、私は音楽に触れてきたのだ。

誰の為でもない、自分の為

 

「私は今、生きている」

 

楽しい時間を過ごした。

彼女との記憶が一瞬のうちに思い出せる。

それほど、はかない時間だった

 

また会いたい

 

そして、伝えたい

君が「好き」と褒めてくれたものを大切にしたおかげで、

人生がどれだけ有意義なものになったのか

 

失わずにすんだのは君のおかげだ

 

いろいろ考えると、私ばかり良い思いをしている

人を楽しませる職についてきた人間だ、多少は与えていたと思っていた・・勘違いだった。

 

与えられてばかりの人生だった。

今になってまた真理に気づくとは・・、

 

枕元に死神が

 

「おむかえにまいりました」

 

彼の荘厳を含んだ話し方は、それがあらがえぬものだと感じさせた

 

 

老人は、約束の地へ向かった