魔法の世界に行きたい

中学2年生の男子は、魔法の世界に行きたがっている。その世界では、勉強をしなくても空を飛べるし、友達もたくさんできる。

過酷な部活動を終え、自室へと帰ってきた中学2年生の男子は、扉を足で閉め、目の前の布団へ倒れた。疲労感と、せっかく家に帰ってきたのだからゲームをしたいから眠ってはいけないという二つの反する思いが、男子の意識をもうろうとさせていた。

なにも考えず、ただ漠然と閉まったドアを見つめている。男子の心に子供が帰ってきた。

 あの扉を開けたら、なにか怪物がいるんじゃないだろうか。あの扉を開けたら、違う世界につながっているんじゃないだろうか。

 子供心に戻った自分に気づき、少し笑う。そんなことあるわけない。

 それじゃあ、あの扉を、いつもの食卓へとつないでいる理由はなんだろう。

 もしかしたら、この部屋の雰囲気が魔法の世界っぽくないからじゃないだろうか。

 男子は思った。もし、この部屋が自分の思うような魔法の世界っぽいものばかりだったなら。魔女の使うような大鍋があり、そこで紫か緑かわからない、とろとろとしたものを煮詰めていたら。本棚には漫画ではなくて、分厚くて、表紙も布製の金色の刺繍をほどこされた本がうめつくしていたのなら。電気だってないはずだ。きっとロウソクに違いない。なにからなにまで、魔法の世界のようにしたら、きっとその部屋の写真をみた人は、そこにある、あの扉の先は同じような魔法の世界につながっていると勘違いするんじゃないだろうか。神さえ間違えてくれれば、自分は魔法の世界へ行けるんだ。

 男子のもうろうとした意識を、理性的な思いが止めることはない。男子は、空想にふける。

 男子はにやにやと笑っている。彼はもう、魔法の世界へ行ったのだ。

 ごはんのときまで、そっとしておこう。