男の悲しみ

 彼女の顔は宝石のようだ。見る角度によって、美しさの種類が変わる。しかし、彼女の内包している魅力は何も変わらない。

 光を受けた肌は、最高級の絹だ。私の手のひらが彼女の絹へ吸い込まれる。これほど人の心を翻弄する絹があるか、悪魔の絹か天使の絹か。

 ああ、なんと優しく物をもつのだろう。あれほど優しく触れられたら、どんなものでも彼女の言いなりになってしまう。ペンは、どこまでもインクをきらさず彼女の思いをわずらわせることがないだろう。私のペンは、私が彼女への思いでいっぱいだから、私に愛想をつかし、いつも乱れでいる。もっと優しくせねば。

 なにものなのだろう。わからない。言葉で彼女の存在を思いえがけばえがくほど、言葉は彼女の真の存在から離れていく。

 これほどの思いを、仕事につぎ込めれば世間的にはいいのだろう。私には、それができない。どちらのほうが幸せなのだろうか。愛と仕事、どちらに人生をつぎ込むのが幸せなのだ。愛には苦しみがある。仕事にはあるのだろうか?

 偉大な芸術家は、仕事と愛を混ぜ合わせることに成功している。

 私は、偉大ではない。愛を混ぜ合わせる選択肢が無いのだ。

 いつ選んだのか、これほど重要な選択を。もう私は、愛を選択せずにいられない。

 贅沢か、そうだろう。愛は、この世でもっとも至高の位置にいるものだ。毒をもつイバラの生い茂る魔の山の頂上に光る存在。求めれば死ぬ。しかし、それを見据えていれば、死をおそれることはない。絶望も来ない。だが、見据えれば求め、死に歩みを進めてしまうのだ。

 

 男のこれほどの愛をうけとれるものはいない。

うけとれるとすれば、男の心のみである。

いつ、男はそのことに気づくのだろうか。

苦しみを喜びにしてしまっている男が、そのことに気づく日はまだ先だ。