DVD屋店長と常連客

店長の趣味がわかるレンタルDVD屋がある。大型チェーン店や、ネット配信が主流の映像業界において、このような店は珍しい。この店が残っているのは、毎日、決まった時間に通ってくる常連客、そして、店長の「仕事は趣味の範疇」という利益度外視の経営方針、そして、親がこの土地を持っていたことのおかげだろう。

今、狭い店内には客が一人、そして店長が丸椅子に座り、都市伝説の本を読んでいる。

常連客:店長って、体いらないって思ったことない?

店長:そんなもんないよ

店長は本を開いたまま答える。本の文字は読んでいない。

常連客:体を捨てたいんだよ。そうすれば、ごはんたべなくていいし、寝なくていいし、ずっとDVDみてていい。

店長:体捨てたら、体を持ってる人間の立場から理解できなくて嫌だけどね

常連客:ふーん、体持ってない立場からでも楽しめる気がするけどね。宇宙飛行士じゃないのに、アルマゲドンを楽しめるようにさ。

店長:マトリックス的精神だね、電脳空間に意識があれば、実体はどうでもいいと言うような。

常連客:あー・・ちょっと違うかな、電脳空間でもマトリックスは仮想世界に自分の体みたいなもんが存在してて、ごはん食べるだろ。そういうのをしないで、DVDみてたいんだよ。

店長:どんだけDVDみてたいんだよ。でも、そうなるとゾンビ的精神に近くなりそうだ。ごはんをたべなくてもいいが、なにかを口にするという行為そのものに価値を見出してるというか。

店長は開いていた本をテーブルに置き、腕を組み、とくとくと語り始めた。

店長:そうなるともう、人間ではないということだね。別の生きものだよ。俺は、人間でありたいからそれは望まないね。

常連客:なるほど。店長は、別の生き物になることを求めてないのか。ドワーフにも、ドラゴンにも、エルフにも興味はない?

店長:ロードオブザリングか。確かにそいつらは話せるけど、俺は興味ないなぁ。なるなら、人間がいいね。アラゴルン

常連客:確か、アラゴルンって人間の中の「ドゥーネダイン」っていう長寿をほこる種族だけど、それはどうなの?

店長:あ、そうなんだ。まぁ、そんくらいならいいかな。長寿の多い、日本人みたいなもんでしょ。

常連客:そっか、いろいろあるね。

店長:いろいろあるねぇ。

それから少しして、常連客がDVDをレジへと置いた。

店長:ゾンビ系ばっかだね。これ、ゾンビの気持ちでみるの?

常連客:頭撃たれる時以外はね。

店長:都合がいいな。

常連客:んじゃ

店長:まいど、どうも!

常連客の背中を、店長が見送る。

常連客は、週末をゾンビ映画で楽しむようだ。

店長は、視線を都市伝説の本へと戻した。