芸術家と頭がい骨

芸術家が一人、ログハウス的アトリエのデッキにいて、次の作品の構想を練っている。

デッキには、円形のテーブルがあり、そこにコーヒーとノートとペンがある。

ホットコーヒーは、芸術家が飲まずに数分置いておいたので、冷めている。

芸術家:ああ!いいアイデアが浮かばない!頭がかゆい!

芸術家は頭をかきむしる。芸術家の剛毛でクセのある髪が、かきむしったまま垂直に姿勢を保たれる。

芸術家:ああ!なんで頭がい骨なんかあるんだ!脳みそに直接手をいれたい!そうすれば、いい構想が思いつくはずだ!

芸術家は頭を殴り始めた。

頭がい骨:おい、他に当たるな

芸術家:俺の勝手だろう、頭の方からする声よ。

頭がい骨:俺はお前だが、お前は俺じゃない。俺を大切にしろ。

芸術家:・・・自分のものじゃないのか?

芸術家は、殴るのをやめた。殴られた皮膚が真っ赤に腫れている。

頭がい骨:そうだよ。お前はただの思考だろう。人間っていうのは、細胞の集まりからできているんだ。車のパーツをバラバラにしても「走る」という機能がどこにもないように、お前も「思考」という機能に過ぎないんだ。

芸術家:なら、俺にお前たちパーツをどうにかしていい権限があるはずだ!走れない車があるなら、走れなくさせるパーツを取り換えるのは「走る」という機能が決めるはずだ。

頭がい骨:ふん、その通りさ。なら、パーツを取り換えればいいはずだ。なんで、走れない車のパーツに対して殴ったり蹴ったりするんだ。それは、ただのストレス発散じゃないか。

芸術家:なら、どうすればいいっていうんだ!

頭がい骨:やりたいことがあるなら、思考することさ。何キロで走りたいのかをね。そうすれば、なにが必要なのかも見えてくるはずだ。俺たちは、自分たちのできることしかできないよ。いくら叩いたところでね。

芸術家:・・・その通りだ。だが、ひとついいかな。

頭がい骨:なんだい。

芸術家:こんなことをいうのは嫌だが、俺のストレスの行き場がない。それを発散しなければ、思考すらできないんだ。

頭がい骨:お前の気が休まるなら、俺に当たってもいいけどさ。けど、そこには何もないということだけは分かってくれよ。

芸術家:ありがとう。なるべく、誰も傷つけずにストレス発散する方法をみつけだすよ。

頭がい骨:覚えておいてくれ、俺たちがいるから、お前がいるんだ。そして、お前がいるから俺たちがいるんだ。目的は同じさ、でも、目的からズレたと感じたら皆でそれを止めるからな。

芸術家:うん。ありがとう。

芸術家はコーヒーを飲んだ。カフェインの作用と、コーヒーで脳が覚めるという先入観によって、思考がはっきりとしたものになった。

頭がい骨の話し声は聞こえなくなった。

芸術家の全てが一つとなり、ノートにペンを下ろした。