彼氏と彼女と鳩

二人の男女が池のある公園を歩いている。季節は春の終わり。桜が風に乗りながら、舞い落ちている。

池の前にある二人用ベンチに男女が座る。池はハスが生い茂っている。鳩が二人の前に降り立った。次の瞬間、人がそこへ歩いてきたので、鳩は首を素早く動かし、移動した。

彼氏:あの鳩の移動を見ると、ちょっと悲しくならない?

彼女:どうして?

彼氏:あの鳩には、居場所がないんだなって思うんだよ。

彼氏は重心を前のめりさせ、静かな声で話し出した。

彼氏:家って大事だよね。

彼女:家があってよかったね。

彼氏:うん、家出した時に学んだよ。

彼女:家があっても、居場所がない時もあるけど。

彼氏:そんなときあるの?

彼女:逆にないの?

彼氏:ほら、俺、内弁慶だから。

彼女:内弁慶ね

彼女は苦笑いする。

彼氏:居場所がないってどんなとき?

彼女:好きなテレビ見てるときに用事頼まれたりとか、父親の小言を聞かないといけないときかな。

彼氏:俺だったら、全部無視するね。

彼女:ひどいね。

彼女は笑いながら、そう答える。

彼氏:ほんとにひどいよね、家の大事さを知らなかったんだよ。当たり前のように与えられるもの。だから、家族の居場所も奪おうとしたんだ。

彼女:そのときだったら、一緒に住めなかったかもね。

彼女は、彼氏の話が自分に話しかけている訳じゃなく、独り言だと気づき、言葉に少しの毒をいれた。それは、自分を見て欲しいという欲求の表れだろうか。

彼氏:今は一緒に住んでくれる?

彼女:今の感じなら、いいよ

彼氏:良かった。

彼氏はホッと一息つく。

彼氏:家に帰りたくなってきたな。

彼女:池を一周してからでいい?

彼氏:うん、鳩を追い払わないように気を付けて散歩しよう。

二人は立ち上がり、歩き出した。

子供笑い声がする。鳩を追いかけている。

鳩は飛び立ち、巣へと帰っていった。