旧友となじみの喫茶店

学生時代からの旧友と家の近所で久しぶりに会うことになりました。午前十時に、私の家の最寄駅で待ち合わせです。駅のタクシー乗り場で、八月の猛暑に汗を流して待ちました。

コンクリートに囲まれた植え込みにぽつんと植えられた街路樹にセミが一匹とまって、静かにしています。さすがにセミも暑いのでしょうか。一週間しか寿命が無いのに、こんな暑さに出てくるとは、物好きだなあなどと、暑さのせいでくだらないことばかり考えていると友人が現れました。

「よう」

1年ぶりに会った旧友は、残念なほどになにも変わっていませんでした。中身もあまり変わっていないのであれば、代わり映えしない会話に、会話が続くか不安です。

「ひさしぶり、どうする?うちくる?エアコンないけど」

「喫茶店とかないの?」

家にエアコンのない読書好きの私は、おきにいりの喫茶店があります。あそこでなら、落ち着いて会話ができそうです。私たちは汗をひたひたと流しながら、喫茶店へ向かいました。街路樹のセミはまだ静かにしていました。

 風鈴の涼やかな音が遠くのほうに聞こえてきました。喫茶店の店先にある風鈴の音です。こういう季節を大事にしているこの喫茶店の価値観が好きなのです。雪が降れば、ゆきだるまが置いてあり、クリスマスには小さなモミの木。お正月には、かがみもち、ハロウィンにはパンプキン。

「雰囲気いいじゃん」

「でしょ」

自分のおきにいりの場所を、評価されるというのは心地のいいものです。私は、まるで店主にでもなったかのように上機嫌に、旧友を店内へ案内しました。

「二人です」

私たちは、二人掛けのソファーが対面になった、窓側の席に座りました。店名の印字された大きな窓からは、暑さでじりじりとやけつくようなアスファルトの道路がみえます。店内の涼しさとは別世界です。それがここをオアシスのようにすら感じさせます。

「いつもどこ座るの?」

良いことを聞いてくれました。

「あそこの二人用の席」

そう、いつもは二人用の席に座るのです。ここで来るときは決まって一人なので、このソファーには座りません。そんなずうずうしいことできる性分ではないのです。でも、じつはこのソファーに座ってみたくて仕方なかったのです。

誰かが座るたびに、羨ましく思っていました。

「実はこのソファー座ってみたかったんだよね」

「へぇー、座ればよかったじゃん。あ、なに頼むの?」

「そういうことじゃないんだよね、アイスコーヒー」

ルーティンを崩して、久しぶりに旧友と会うというのも、悪くありません。