記憶の母鳥①

 太陽があと1時間ほどで海へ沈む。

 この時間になると、この南の小さな島国では仕事を終えたものたちが、かつてこの島国を支配していた文明の匂いを残す、海岸に作られた城壁に腰掛け、太陽が沈むまで談笑する。

 夕日にあてられた人々の顔には赤みがさし、それだけで喜びを表現しているかのようだ。

 その喜びの中に、20代ほどの仲むつまじい男女二人がいる。男は南国らしく、半ズボンとサンダル、上半身裸で、日焼けした肌と骨太な骨格が男の健康さを語っている。女は、サンダルと胸を隠すだけのトップス、涼しそうな麻のロングスカートをはき、艶のある美しい黒髪をしている。

 二人は最近みつけた素晴らしい歌手の話や、家族の話、何度となく聞きあった、互いの好きなところを話した。

 太陽はさらに赤みを増し、今日の終わりが近いことを知らせる。

 

男:この海と夕日をみてると、懐かしい気持ちになる。

 

女:この色とかそういう感じだよね。

 

 男が何か言いたそうに、女のほうをみつめた。女はそれに気づかない。

 

男:俺は、あれが現実だったのか夢だったのか今でもわからない。

女:?

 

 物語を語る口調で男が話すので、女は不思議そうに男をみた。

 

男:でも、頭から離れない記憶があって。夢と呼んでもいいかもしれないけど、感覚的には現実で、過去に近い。

 

男の話は、まだ誰にも話したことがない話なのか、まとまりきっておらず、言葉が断片的で、話の内容がつかめてこない。女は、男の頭を整理するように、相槌をうつ。

 

女:記憶?

男:そう、そういう記憶がある。夢みたいな記憶。話していい?

 

女は、男が聞いてもらいたい話があるのだということを理解した。

 

女:うん

 

ここより南へいったところに島の集まる群島がある。

その中に、ヤシが数十本と小さな林、黄色い砂浜でいっぱいになる小さな島があった。

そこへひとつの珍しい漂流物が砂浜に打ち寄せられた。

 

赤ちゃんだ。

 

 

             つづく